MoTeC ECUをM48からM800に換装するにあたり、「エンジンが掛かる」「とりあえず走る」という状況だけを見れば、配線にもセンサーにも異常はありません。ただ、「たまに始動しない時があって、丸太でクラセンを殴ると始動する」という状況を目の当たりにしているため、まずはクランク各センサー部分のチェックです。
ユーノスコスモに搭載された13Bと20Bには、後に発売されたFD3Sに先駆けてシーケンシャルツインターボが搭載されていました。このことから、FDと同じようなエンジンが搭載されていると思っている方が多いのですが、実は違います。
コスモのエンジンはFDではなくFCの13Bと共通点が多く、クランク角センサーもFCと同じタイプです。
現オーナーは、交換用のクラセンを持参して来てくれたのですが、弊社で診断したところ、どうやらら元のクラセンに故障はありませんでした。
では、丸太でゴンゴン殴ると始動できたトラブルは、いったい何が原因だったのでしょう。…実は、配線を引き直す際に発見したのですが、クラセンのコネクターが割れていました。クランキングしながら丸太で叩いたことで、接触不良だったこのコネクターの接点が復活したのではないか…というのが回答です。
元のエンジン配線をすべて撤去して、新規配線でM800を接続。一部のセンサーはリフレッシュしましたが、クランク各センサーは「丸太で叩かれていた物」を再使用。割れたコネクターを新品に交換したので、同じトラブルはもう発生しないと思います。
そして、すべての配線作業が終わり、M800でエンジンを始動… と、行きたいところなのですが、ひとつクリアしなければならない点があり、初期設定が完了できません。それは、1番ローターの圧縮上死点の位置合わせです。
レシプロの場合、プラグホールからダイヤルゲージを挿し込み、1番ピストンの上死点位置を計測することができますが、ロータリーエンジンの場合には、プラグホールからダイヤルゲージを挿し入んでも正確なチェックができません。本来であれば、エンジンを組んだ人がクランクプーリーにチェックを入れ、そのマークを元に設定するのがセオリーなのですが、GReddy6は複数のオーナーの元を渡り歩いてきているために、現在のマークを誰が印したのかが判らず、正確な位置だという保証も根拠もありません。
つまり、基本的には「自分で組んだから間違いなくこのマークの位置は正しい」という前提がなければ、フルコンの初期設定自体が不可能 …なのですが、ローターの動きから圧縮上死点を計測する方法をスクートスポーツの小関氏から教えて頂き、ピタリ正確な位置を基準に初期設定することができました。
今回の制御系リフレッシュ作業にあたり、オーナー様は「パワーよりも、乗りやすさ、気持ちの良さ、耐久性を重視したい」とお考えでした。車両として考えるのであれば、エンジンルームから熱源を減らすことができるNA化も、ひとつの手段です。しかし、RE雨宮様のGreddyシリーズ・デモカーは、トラスト製のGreddyタービンが付いているからこそGreddyの冠です。
「Greddyタービンを外してしまえば、Greddy6の名に傷を付けてしまう。これを外したり変更するという選択肢は、絶対に無い。」
オーナー様は、このレジェンドマシンとRE雨宮様の製作コンセプトに敬意を払っています。多くのパーツを新品やワンオフに交換しているものの、オリジナルな仕様変更は一切なく、あくまでGreddy6を最高のオンリーワンにすることだけを考えています。
セッティングでは、ブーストコントロールをカットし、最低ブースト(ブースト圧はウェストゲートのスプリング依存)でおこないましたが、真夏の猛暑で工場内の気温が45度を超えてしまいました。大事を取って、全開域の詰めは涼しくなってから再調整することとなり、無事に御納車させて頂きました(詰めは甘いですが、現状でも高回転まで使用した全開走行は可能です)。
クラセンを叩かなくてもエンジンが掛かるようになったのはもちろんのこと、低回転域から細かく調整したことで、断然乗りやすくなったと喜んで頂けました。オーナー様は本セッティングまでに、色々と仕様変更されるとのことです。最終的な仕上がりが本当に待ち遠しいです。
◆以下はロータリーエンジンが好きなマネージャーの独り言◆
ロータリーエンジンとレシプロの同出力程度のエンジンを比較した場合、明らかにロータリーエンジンの方が「小さくコンパクトにまとまる」「部品点数が少ない」「低振動」など、エンジンとしての資質の面で圧倒的に優れているのは御存知だと思います。
もちろん、ネガティブな面が無いわけではなく、ロータリーエンジンの方が水温が高くなる傾向や、同程度の出力であっても、使用するタービンが大きかったりします。これは何故でしょう。
燃焼室は、圧縮した混合気を燃焼させる空間であり、燃焼で発生したエネルギーはピストンやローターの運動エネルギーに変換されます。本来であれば、燃焼エネルギーのすべてを回転エネルギーに変換したいところなのですが、どうしても、多くは熱エネルギーに変換され、燃焼室を過熱させることに消費されてしまいます。
レシプロ/ロータリーエンジンを問わず、出力アップで排気量を上げようとしたり、高ブースト化を狙ってローコンプ化すると、燃焼室壁面の面積が大きくなります。面積が大きくなるということは、燃焼で発生したエネルギーを熱として吸収する面積が増えることになり、結果として水温や油温が上昇しやすくなってしまうのです。
ロータリーエンジンは、移動する燃焼室という特殊な環境から、どうしても燃焼室壁面の面積が広い=熱に変換される比率が高く、同一の燃料消費で得られる出力はレシプロに劣ってしまうのです。
これがロータリーエンジンの、水温が高く、同程度の出力でも、より大きなターボが必要になる理由です。しかし、これはロータリーエンジンの個性の一部であっても、決して欠点ではありません。
同寸、同重量クラスのレシプロで、ロータリーエンジンと比肩しうるトルク/パワー/フィーリング/価格を実現するのが不可能である以上、ロータリーエンジンが最高のパワーユニットであることは歴然なのです。
この最高のエンジンを製作したマツダに敬意を払うのは当然ですが、Greddy6に搭載された20Bは、RE雨宮様でサイドポート加工が施されていることに注目してください。ポートチューニングが施されたストリート20Bターボエンジンは非常に少なく、ましてやRE雨宮様で製作されているとなれば、その希少性はオンリーワンに限りなく近いと考えられます。
車両の希少性だけではなく、最高のエンジンに最高のチューニングが施された1台。この復活のために、私達に声を掛けて頂いたことは本当に光栄です!
つづく