先日解説したフェラーリ328の電子スロットル化について、たくさんの御質問や御相談があり、説明不足を反省しております。改めて、一般的なワイヤーケーブル式スロットルと電子スロットルの違いについて説明させて頂きます。
アイドルコントロールバルブは、文字通りアイドリング回転を制御する装置で、電子制御エンジンの多くに採用されています。
冷間始動ではアイドル回転数が上昇し、水温が上がってくると回転が下がる。クラッチを切ってエンジン回転数が一気に落ちても、そのままエンストせずアイドリングする。そして、エアコンをONにすればアイドリング回転が上昇。
この一連の操作を、頑張ればアクセルを踏む右足でやり続けることはできるけれども、できることなら全自動でやって欲しい(そして失敗してエンストも、絶対しないで欲しい)。…そんな夢を叶えたのが、アイドルコントロールバルブです。
雑な図で申し訳ありませんが、左側がアイドルコントロールバルブ付きエンジンです。スロットルバタフライが全閉した状態でも、ECUに設定されたアイドル回転数を保つべく微妙に開閉具合を調整します。
アイドルコントロールバルブは、複数の制御が渾然一体となってコントロールしています。
イメージ的には、エンジン回転が下降してきた際に、そのままストンとエンストしないようにコントロールバルブを大きく開き、勢いよく下降するエンジン回転にブレーキを掛ける制御。
例えば、アイドリング回転を800rpmに設定したとします。
アイドリングを800rpmで安定させることがコントロールバルブの役割となりますが、高回転でクラッチを切って、エンジン回転が急降下。800rpmまで下がったところでコントロールバルブが開いても、間に合わずにエンスト(ストール)してしまいます。このため少し早めにバルブを開き、800rpmでピタリと安定させるような、ストール耐性を向上させるセッティングがおこなわれます。ここでエンストしない程度に空気を取り込めるサイズとして、アイドルコントロールバルブは最大でも2cm前後の直径が与えられています。
対する電子スロットルは、スロットルそのものを電気的に開閉させているため、アイドルコントロールバルブを廃して、機能を一元化させているのが特徴です。
近年、燃費向上や排ガスのクリーン化が重要視されていますが、
●急激にアクセルペダルを踏む=燃費が落ちる
●急激にアクセルペダルを離す=排ガスが汚れる
この急激に…というのは、全開走行の時だけではなく、普通に街乗りをしている際のアクセルワークも含みます。ドライバーの操作以上にゆっくりバタフライを開閉させ、燃費や排ガスのクリーン化を実現しているのです。
このような制御は、スポーツ走行時のアクセルレスポンスを阻害し、リニアなドライビングを楽しませてくれないために、スポーツカーのオーナーの中にはアンチ派が多数存在します。
しかし、アイドルコントロールバルブに対して、電子スロットルでのアイドル制御には利点があります。例えば、Z32型フェアレディZのように、エンジンユニットは左右対称に見えるのに、実は制御が左右非対称の場合。アイドルコントロールバルブが片方のサージタンクにしか付いていないため、左右のサージタンクを連結パイプで繋いでいますが、アイドリング時の空燃比が左右バンクでまったく別の数字になるほど変わります。
左右バンクそれぞれにアイドルコントロールバルブを備えれば問題ないような気がしますが、当時は制御システム的に難しかったのです。時が経ち、同じくV6ツインターボのR35型GTRでは、左右のスロットルが電スロ化され、完璧で緻密なアイドルコントロールをおこなえるようになっています。
さらに、アクセルペダル操作に関係なくECUが開閉できるため、ローンチコントロールやアンチラグのような制御が可能となりました。
また、アイドルコントロールバルブは「アイドリングさせるための空気を取り込む弁」という大前提から、全開にしても回転数が異常に高くなることはありません。対する電子スロットルは、バタフライを開閉させてアイドルコントロールをしているため、空気を取り込める量の上限が格段に多く、より広範囲なアイドル制御が可能です。
先日紹介したフェラーリ328のように「アクセルを踏まないクラッチワークだけのゼロスタート」のような制御は、電スロを後付けした車種では今後定番化していくと思います(ECUの制御速度やリミッターの設定を甘く見ると、予期せぬ急発進のリスクが高まります)。
同様に、R35GTRや86/BRZのような「電スロ標準搭載車」では、MoTeC M1制御化することで、単に右足に追従するレスポンスが手に入るだけではなく、純正ECUでは届かない領域の制御が可能となるのです。