メタノール燃料のドラッグマシン |
現在は、残念ながらこのようなドラッグ用エンジンが新規製作されることが少なくなっていますが、世界を見渡すと2500~3000ps前後にチューニングされた日本車のドラッグマシンがタイムを競っています。
日本的な視点では、3000psと言われても浮き世離れし過ぎてしまい、まるでピンと来ません。
本当にそんなパワーが出ているのか、信じられない人も多いと思います。
ハッキリしているのは、大昔の430psオーバー(計測不能という意味)とは違って、燃料消費量や1/4マイルのタイムという、出力の数字を裏付ける事実や動画(こちらも浮き世離れしています)が公開されているという点です。
すでに、従来の日本で一般的だったチューニングセオリーの範疇外にあり、さまざまな部分で別の手法が採用されています。
3000ps前後の大出力を実現するためには、エンジンの超強化や、ハイブーストを可能とする超BIGサイズターボが必要になるのは当然ですが、現在市販されているチューニング車輌用ターボには、実は3000psを超える風量の製品は存在しません。
存在しないのに3000psを達成できる秘密は、燃料の違いです。
これを実現しているのはメタノールです。
メタノールはノック耐性や気化熱による冷却がハンパじゃありません。
ガソリン比で2倍以上を噴射する必要があるため、エンジンの熱を奪う量が、とにかく凄い。
驚くほど冷やせるなら、インタークーラーも無い方が軽くなるし良いだろう…と思いがちですが、トップクラスのマシンは必ずインタークーラーを装着しています。
ドラッグレース用のエンジンでは、メタノール燃料やNOSによる冷却効果があるなら、インタークーラーは不要。…と、インタークーラーレスの仕様も存在します。
これはこれで確立されているチューニング方法です。
しかし、3000ps近い出力となると、リッター1000psに限りなく近い領域です。
1気筒あたりの出力が500psに達します。
これがどういうことか。
要は、想像を絶する量の空気がシリンダーに送り込まれ、恐ろしいレベルで圧縮されているということです。
そして、恐ろしいレベルで圧縮された空気は、恐ろしいレベルの高温に加熱します。
この問題を解決するには、吸入空気温度を極限まで低下させる必要があります。
圧縮後の温度が異常値にならないように、吸入される時点で可能な限り冷却しておく必要があるのです。
そのためにはインタークーラーが不可欠です。
ここで使用するインタークーラーは水冷。単純に水を回しているのではなく、氷やドライアイスで冷却しています。
空気は圧縮すると温度上昇し、膨張して単位あたりの酸素密度が低くなります。酸素はエンジンの出力アップに不可欠なので、インタークーラーを使って密度を濃くする必要があるのです。
例えばインタークーラーが無いターボ車の場合、ブースト0.7キロ程度でも、吸気温度が100度を超えるケースがあります。
エンジンの圧縮比が9:1の場合、その100度を超えた0.7キロを、さらに9倍に圧縮することになります。
この圧縮による超高温が、デトネーション発生のリスクを急上昇させるのです。
インタークーラーは、単純に酸素密度を高くする=パワーアップを狙うだけの装置ではなく、安心して高出力を発生させるための装置でもあるのです。
3000ps近い出力となれば、ブーストも4キロ以上。
超高温化した吸気を水冷インタークーラーで一気に冷却できたとしても、それだけ圧縮された空気を、さらにシリンダーで超高圧縮するとなれば、圧縮後の温度は非常に危険な状態になってしまいます。
そのためのメタノール燃料であり、メタノール燃料だからこそ、これだけの仕様が可能なのです。
メタノール燃料の気化熱による温度低下と、ノック耐性。
すべてが組み合わさることで、強烈な出力が実現します。
ちなみに、海外のこのようなドラッグマシンの多くは、これだけのブーストを掛けるエンジンにも関わらず、12~14:1という、NA並みの超高圧縮に設定されている個体がゴロゴロしています。
どうやってセッティングしているのか、どうやってパワー計測しているのかなど、聞けば聞くほど、知れば知るほど、日本の常識からは「浮き世離れしすぎ」で、ついて行けなくなります。
ちなみに動画は、弊社とメタルワークショップM様が共同でトライ&エラーを繰り返している2JZ。
燃料はメタノール100%+独自のプラスアルファ(なので実際はメタノール98~99%)を使用しています。
(世界のトップクラスと比較すれば、圧縮比も発生パワーも島国レベルです)
ここまでの仕様になると、発生出力は機械的強度の我慢比べ。
どれだけのパワーでどこから壊れるかは、壊してみないと見えてこない領域ですが、メタノールをその領域で使用することで、何がどのようになるか。
有効な活用方法と制御に関するノウハウを手に入れることができました。