86/BRZのエンジンスワップ 一体何が難しいのか |
「エンジンの移植」だけではなく、ミッションをどうするのか、ミッションごと換装ならペラシャの長さをどう調整するのか、デフやドラシャまで変更するのか…など、載せたエンジンと駆動系との帳尻を合わせる部分も考えなければなりません。
これらの問題は、すべてハードウェアの悩み。
日本のチューニング業界では、この問題をクリアしたチューニングカーが、多数製作されてきました。
86/BRZも、600psオーバーの出力を達成しようと考えた場合、2JZなどの実績あるエンジンに換装する方が手っ取り早そうです。
しかし、エンジンスワップした86/BRZを、日本のストリートチューニングでは、ほとんど見ることがありません。
そこには2つの問題があるからです。
ひとつは公認車検の問題。
ストリート仕様を製作する上で、いまや避けて通ることはできません。
これが非常に難しいという話は、前回説明した通りです。
もうひとつの問題。
それはCAN(キャン)の壁です。
現代の自動車は、エンジン、ABS、エアコン、メーターなどが、それぞれ独自のコンピューターで制御されています。
これらのコンピューターは車内ネットワークで接続されていて、それぞれが常に(優先順位を決めた)情報を送受信しています。
このネットワークがCAN。
複数のコンピューターが渾然一体で自動車全体を絶妙にコントロールしているのです。
たとえば急ブレーキを踏むと…
●ABS用コンピューター
ブレーキペダル踏力と車速(前後輪の速度差)を監視しつつ、ブレーキのロックを回避。
●エンジン用コンピューター
CANで共有されたブレーキ踏力や車速情報に合わせてエンジンブレーキ。
●AT用コンピューター
CANで共有されたブレーキ踏力や車速、エンジン回転情報に合わせてシフトダウン。
●メーター用コンピューター
CANで共有された車速やエンジン回転数を表示すると共に、共有されたABS作動情報を感知してメーター上に表示。
非常に大ざっぱですが、このように複数のコンピューターがそれぞれ分担して制御しているのに、ドライバーにはバランス良く減速できていると感じさせる。これがCANの特徴です。
自動車メーカーによっては、エンジン制御と電スロ制御が別のコンピューターの場合もあるなど、どんどん複雑になっているのが現状です。
このシステムでは「すべてのコンピューターが常に情報を送受信している」ところがポイントです。
どこかのコンピューターから情報が来なくなれば、すべてのコンピューターが車輌を停止させようとするなどの安全策を取ってくれます。
つまり、エンジン制御用コンピューターをフルコンに交換するには、フルコンが純正同様に情報の送受信をおこなう必要があるのです。
この問題を完全解決したのが
MoTeC M1 86/BRZパッケージであり、
MoTeC M1 86/BRZエンジンスワップパッケージです。
これらのパッケージをインストールしたMoTeC M1は、純正ECU同様にCAN情報を入出力します。
純正タコメーターをはじめ、あらゆる純正装備が当たり前のように動作すると共に、驚くほどなめらかなエンジン制御を可能とします。
自然なフィーリングでハイパワー/ハイトルクを楽しみたい人には、まさに「夢を実現するためのマストアイテム」です。
当然ですが、MoTeCのシステム同士も独自のCANを構築可能です。
これにより、単純な補正や制御に複雑な条件設定を追加するのが容易になります。
ちなみに、エンジンスワップと同時にABSやエアコンは撤去、動かない純正メーターも撤去して社外品に交換! という勢いでサーキット専用車両を製作する場合には、CANを無視して従来通りのエンジン制御にしたり、キャブレター化することも可能です(現代の排ガス検査をキャブでクリアするのは現実問題から考えても相当難しいためサーキット専用車両以外には推奨しません)。
追伸:
余談になりますが、市販車にCANのようなネットワークを初搭載したのは、マツダのユーノスコスモだと聞いたことがあります。
今のような複雑化したシステムではなく、あくまで実験的だったそうですが、ユーノスコスモのデビューから26年、見えない部分で自動車の制御技術は驚異的に進化しているのです。