R34GT-R Vspec-II nur その3 と その4 |
1回目にも少し説明しましたが、ピストン・コンロッド重量や、燃焼室・ポート容積をキッチリと揃えた場合でも、燃料の噴射量や燃焼に誤差があれば、気筒ごとのバランスは崩れてしまいます。
「買ってきたピストン」や「買ってきたコンロッド」に、重量やバランスなどの製造誤差がある場合、剛性に問題無い部分を削るなどして重量を合わせます。
バランスの良いエンジンを追求する作業としては、有名な部分だと思います。
これに対して、「買ってきたインジェクター」は?
実は、●●●ccと書いてあっても、すべてがピタリと同じ量を噴射するわけではありません。
所詮工業製品ですから、ピストンやコンロッドと同様に、製品にバラつきがあるのです。
均一な量の燃料を噴射しないということは、ECUが一定の噴射量を指示しても、各気筒ごとの噴射量には誤差が生まれます。
ちゃんとセッティングしたつもりでも、気筒間のバランスにズレが生じてしまうのです。
単純な製造誤差による僅かな噴射量の差くらいなら、まだ良い方です。
中には「低回転では他のインジェクターより多く噴射し、高回転では他より噴射量が少なくなる」という、やっかいな問題を抱えた個体も、少なからず存在するのです。
また、長期的な使用によりインジェクターが汚れてくると、噴射量の差がより顕著になってきます。
これはASNU等の専用計測器を使用すると一目瞭然です。
当たり前のようにセッティングしていても、燃料の量が「濃い気筒」と「薄い気筒」が混在しているのが事実です。
ガソリンを噴射するだけのインジェクターですら、これほどの誤差があります。
つまり、すべての気筒は「バランスが悪い」という前提で、セッティングすることが肝心なのです。
とことんまで追求する場合、各気筒ごとにラムダセンサーを取り付けて、気筒ごとの空燃比を丸裸にするのが手っ取り早いです。
しかし、気筒ごとにセンサーを並べてセッティングができないケースもあります。
今回も、タコ足に穴を開けての加工はNGです。
ラムダセンサーを全気筒に装着できない場合、MoTeCのノックモジュールをM800に接続して、気筒ごとの誤差を追求することができます。
MoTeCのノックモジュールは、純正ノックセンサーと接続して使用します。
単にノッキングを警告するだけではなく、どの気筒から、どのレベルのノッキングが発生しているのかが、一目瞭然になります。
ノッキングの要因はさまざまですが、主に「空燃比が薄いとき」と「点火時期が進み過ぎている」ときに顕著に発生します。
例えば点火時期を進めていった際に、1気筒だけノックレベルが上昇してきた場合、その気筒だけ燃料を足せば解決するのか、点火を遅らせることで解決するのか、さまざまなパターンをテストします。
この作業から、気筒それぞれの個性を診断。
他と比較して燃料が薄いのはどこか、濃いのはどこか。
薄い理由、濃い理由を検証していきます。
実際の作業では、これまでの比較データや計測器によるトルクの発生具合など、多角的な視点から調整を積み重ねていく作業となります。
この作業は、各気筒それぞれを「ノッキングしない目一杯のパワーにセッティングする」わけではなく、「すべての気筒が均等なパワーを発生する」ことを目指します。
エンジン各部の重量や容積、クリアランスを精密に揃える作業が地道であるように、クランク角0.1度の領域まで点火時期と燃料噴射を詰める作業。
精密に組んだエンジンの性能を、精密に制御することで引き出す。
それができるのがMoTeC ECUです。
日産純正の量産エンジンであることと、走行を重ねている部分があるため、レースエンジニア様が組んだエンジンとはクォリティが異なりますが、その「アンバランス」を「制御でバランスさせる」ことを追求します。
ひとつひとつの調整は、0.5ps前後の誤差とも言える差かもしれません。しかし、10箇所詰めることができれば5ps、20箇所詰めることができれば10psの向上が見込める可能性があります。
それが3000rpm以下のハーフスロットル時であれば、確実に体感できる差となるでしょう。
最高速やゼロヨンの記録ではなく、信号から発進するときの、なめらかに回るエンジンフィールと力強さ。
毎日乗る車だからこそ、毎日乗る部分を最高の状態に仕上げたい。
ここまでの追求が可能なECU、それがMoTeCです。
…などと自慢話をしたかったところなのですが、
ええっ?
えええっ??
つづく。
と思いましたが、このまま最期まで紹介します。
ここからR34GT-R Vspec-II nur その4 最終回
M800を使い、行けるところまでセッティングを追求していく予定でしたが、急遽納車が決まってしまいました(汗)
…とはいっても、普段のセッティングと比較すれば120%以上の追い込み具合です。より一層のなめらかさに仕上がりました。
そして、もうひとつ驚いたことに、この34R、ノーマルではありませんでした(大汗)
ノーマルとMoTeC M800の比較で、ブーストが掛からない領域がどれくらい変化するのか。
この点に興味があったのですが、驚いたことにセッティング前の時点で400psを発生。
前オーナーが手を入れていたらしく、ブーストアップ+ROMチューン(現車セッティング?)車輌だったようです。
しかもブーストコントローラーを使用せず、配管内のオリフィスを抜いて「見た目はノーマル」という徹底ぶり。
まんまと引っかかりました(笑)
現オーナー様も、普段もっとトルクとパワーのある車輌に乗られているため、全然気が付かなかったそうです。
ちなみに、エンジンルームで手を加えてある部分は、追加したブーストコントロールバルブだけです。
このバルブはポルシェターボ純正と同じで、精度と耐久性に実績のある製品です。
M800はダッシュボードの左端裏側(上の画像)に隠し、グローブBOX内にPC接続端子(下の画像)を伸ばしました。
完全ノーマルとの比較ができなくなってしまったのが残念ですが、元のブーストアップ仕様と同じブースト圧(0.8kg)で、比較したグラフです。
燃料系はポンプもレギュレターも純正のままなので、パワーはここが上限です。
パワー比較画像の、赤い線がM800、緑の線がブーストアップです。
当たり前の話ですが、グラフにすると「ほとんど同じ」に見えるものの、実際に乗ると「まったく別のエンジン」です。
「同じ具材でも、料理人が変われば違う味になる」のと同じで、セッティングした人の個性の差では? と思う方がいるかもしれませんが、ハード的な変更を一切おこなわない同一・同仕様エンジンです。
料理とは違い「エンジンが持つ本来の性能を引き出す」という作業なので、仕上がりに差があるとすれば、本来の性能に「より近付けることができた」ということです。
単にエンジンがシルキーなフィールで回るようになっただけではなく、マフラーからの音まで変わりました。
ピークパワーは気にしなくて良いという御依頼でしたが、結果としては410.9ps/45kg-mから、427.4ps/46.3kg-mに微増。
パワーの差は僅かですが、トルクの1.3kg-mアップは確実に体感できると思います。
「高価なM800に交換して、たったこれだけ?」と、数字からは感じるかも知れませんが、オーナー様は大絶賛。
以下がオーナー様のインプレッションとなります。
「MoTeCになってハッキリしたんですけど、まず、元々はアクセルレスポンスが悪くて、ろくに反応しなかったんですよ。
もしかすると、乗りやすくするためにわざとそういう味付けだったのかもしれないけど、スポーツカーじゃないですか。それじゃダメです。
MoTeCに変えてからのアクセルレスポンスは理想的。
すごく改善されて、アクセルに即反応するようになったけど、過激じゃないんです。
レスポンスが良くなっているけど、ぎくしゃくするほどのツキじゃないから、疲れないのが絶妙です。
ターボが効かない領域もスーッと加速して、ターボの効き方もリニアになった。
アクセルのレスポンスが悪くて、のろのろ加速して、ようやくブーストが掛かる感じから、レスポンス良く立ち上がってブーストがリニアに掛かるようになったんで、楽しいですよ。
下から楽しくなったから、踏んじゃうから燃費は悪くなるかも(笑)」
これほどオーナー様が喜んでくださったセッティングの秘密は…
「たかが1ps、されど1ps」
この言葉に尽きます。
1~2psなんか誤差のような気がします。
400psと401psの差を感じることができる人は少ないでしょう。
ところが、
軽くアクセルを踏んでいる状態が10psから11psになれば、10%アップ。12psなら20%アップです。
これなら誰でも違いに気が付きます。
アクセルレスポンスの向上に加え、地道な調律で向上した差が、体感値として現れている証明です。
単なるブーストアップ仕様の紹介でしたが、長文になってしまい申し訳ありません。
MoTeC ECUの持つ機能の一部分が御理解頂ければ幸いです。
このような調整ができ、その調整を体感できるのがMoTeCです。