フェラーリ308クアトロバルボーレ その9 |
去年の3月にKジェトロニックを撤去してMoTeC ECUでインジェクション化した車輌です。
この頃のスーパーカーは、何より全高の低いスタイルが最高です。
308や512などは、モデル途中でキャブからインジェクションに変更になったのですが、それは今でいうところの「インジェクション」ではなく、「Kジェトロニック」という制御方法です。
Kジェトロニックにも良い点は色々ありますが、あえて悪い点を2つ。
・レスポンスが悪い。
・長期放置で内部が腐食する。
この2点が決定的です。
レスポンスの悪さは構造上の問題で、必死で調律したとしても、同じく必死で調律した現代のインジェクションシステムやキャブレターには遠く及びません。
長期放置に関しては、まず「ガソリンは腐る物」という認識が必要です。
ガソリンは新鮮なほどパワーが出ます。
これは「満タンにして●ヶ月は大丈夫」という話ではありません。
「都内のハイオクが飛ぶように売れるスタンドで入れるとパワーが上がり、ハイオクを入れる車が週に数台のスタンドで入れると、ノッキングが出る。」
極端過ぎる表現ですが、ガソリンに「このような傾向」があるのは事実です。
そして、時間の経過と共に臭いも変わり、最終的には揮発も点火もしない「腐った液体」になります。
駐車場や倉庫だろうと、空調の効いたショールームだろうと、長年放置していた車両は、ほぼ確実に「腐食したガソリンに浸食されています」。
放置前にタンクの燃料を抜いておけば大丈夫…ではありません。
キャブレターやKジェトロの内部も、ほぼ確実にアウトです。
簡単に説明すると、Kジェトロは放置しているだけで故障が発生してしまうのです。
まさに、たまにエンジンを掛けて乗ってやらないとダメ…の所以です。
腐食ガソリンでダメージを負ったKジェトロは、新品の部品が存在しないため、基本的には復活しません。唯一、Virage様のような専門ショップでのみ修理可能ですが、乗らずに放置する期間が長くなれば、また壊れてしまいます。
では、インジェクション化すると長期的な放置が可能になるのかといえば、決してYESではありません。
結局のところ、ガソリンが腐食するほど放置すれば、タンクやポンプが錆びるのは同じです。
インジェクター自体も、内部の摺動部分が固着する可能性があります。
ただし、インジェクターの洗浄、燃料タンクの交換もしくはレストア、燃料ポンプ・ホース・フィルターの交換で復活可能です。復活するのが難しいほどの惨状とは無縁です。
前置きが長くなってしまいましたが、以上のような問題から、展示や放置の長いフェラーリなどのクラシックカーは、ほぼ確実にKジェトロに問題を抱えてしまいます。
飾ったままなら問題ありませんが、乗って楽しむことを考えた場合は、現代的なインジェクション制御化を推奨します。
この308の場合、デリバリーパイプ等を追加する必要があるため、完全に純正同様なエンジンルームとはいきませんでしたが、プラグコードを残しつつマルチコイル化するなど、可能な部分はノーマル風に。普段とは違う手の入れ方をしました。
弊社でインジェクション化した直後に、別のショップ様で各部のメンテナンスやレストア、オーバーホールをすることになり、正式なセッティングが済んでいない状態でしたが、いよいよ最終調整です。
パワーチェックの結果は、244.2ps/26.5kg-m。
一応カタログスペックの235psを9psほど上回っていますが、体感的には明らかに数十馬力の差を感じます。
また、高回転まで気持ちよく伸びるフィーリングも、さすがフェラーリです。
お客様の要望は、安心して遠距離ドライブができる信頼性。
エンジン制御の部分で御協力させて頂き、本当に有り難うございました。