R34GT-R Vspec-II nur その2 |
今回、M800を使用しておこなっている作業の内容を、一般的に判りやすい言葉で説明すると「ブーストアップ仕様」です。
マフラーすら交換していない完全ノーマル車両なので、わざわざMoTeC M800を使用しなくても、割安な制御方法で充分にブーストアップを楽しむことができます。
恐らく、設定ブースト圧が同じであれば、ピークパワーの数字が極端に変わることは無いでしょう。
では、M800を使うことで、具体的に何がどれだけ違うのか。
ひとつずつ紹介していこうと思います。
お客様からの御依頼は「ピークパワーなんかどうでもいいから、3000rpm以下を改善してください」というものです。
つまり、「ブーストアップ仕様」ですが、ブーストが掛からない領域のチューニングが求められているのです。
前回説明したとおり、ハードウェアの変更なしでは、非常に難しい事案です。
M800にできることは、現在のエンジンが持っているポテンシャルを最大限まで引き出すことだけです。
ノーマルエンジンとノーマルECUの組み合わせには、量産品としての限界があります。現車合わせのセッティングをすることで、例え3000rpm以下のブーストが掛からない領域であっても、体感できるレベルで改善できるハズです。
毎回転ごとに「設定したタイミングで確実に点火」させることと、「設定したタイミングで確実に燃料噴射」する。
これが非常に重要なのですが、では、どのタイミングで燃料を噴射するのが最適なのか。どのタイミングで点火するのが最適なのか。
今回は、インジェクターの燃料噴射時期について紹介します。
●燃料噴射タイミング
各気筒のインマニに装着されたインジェクターを、気筒ごとに個別のタイミングで噴射することを、シーケンシャル制御と呼びます。
当然、M800は、この噴射タイミングをエンジン回転数に応じて微細に変更することが可能です。
なぜインジェクターの噴射タイミング調整が必要なのか。
RB26のIN側純正カムは240度です。
単純に計算すると、800rpmでアイドリングしている場合、吸気バルブは「0.1秒閉じて、0.05秒開く」を繰り返しています。
この0.05秒の瞬間を狙って燃料噴射するのが、エンジンにとって一番効率が良いからです。
バルブが開いてから噴射するのではなく、開く前に噴射して、開いた0.05秒のタイミングでシリンダーに燃料が飛び込むことが理想です。
エンジン回転数が上昇すると、バルブが開く時間はどんどん短くなってきますので、噴射タイミングも回転数に応じて早めていく必要があります。
燃料の噴射が「バルブが開いたタイミング」か、「バルブが閉じたタイミング」かで、まず何が変わるのかといえば、ポートに付着する燃料の量です。
インジェクターから噴射された燃料は、ポート壁面やバルブの傘に当たっても、すべてがベチャッと貼り付くのではなく、かなりの量が弾かれて飛散します。
飛散した分は次にバルブが開いたタイミングで混合気としてシリンダー内に入りますが、貼り付いた分は大きな滴になったり壁面を流れて入るため、ほとんどが未燃焼ガスになります。
噴射しても使わない燃料が多いということは、空燃比を適正にするためには、壁面に付着する分を追加した、より多くの燃料を噴射する必要があります。
この無駄な燃料は、燃費の悪化、マフラーからの黒煙、アクセルレスポンスの鈍化、ポートや燃焼室のカーボン堆積に繋がります。
特にカーボンの堆積は、長期的にエンジン性能を大きく崩すことにも繋がるため、できる限り避けたいです。
では、実際に燃料噴射のタイミングは、どのように設定すれば良いのか。
これは簡単です。
燃料テーブル(マップ)のセッティングを済ませた後、各回転域ごとに噴射タイミングを細かく変更していきます。
すると、セッティングが出ていたはずの空燃比に、濃くなる部分や薄くなる部分が出てきます。タイミング的には、一番濃くなるポイントが最適な噴射タイミングです。
(ポート壁面に貼り付く量が減り、より多くの燃料がシリンダーに入った証拠です)
MoTeC ECUは、ラムダ(空燃比)センサーを直接接続できるため、噴射タイミングと空燃比をデータロガーに記録することもできます。
当然、噴射タイミングで変化する空燃比を、PCの画面内でリアルタイムに「タイミングと空燃比のグラフ」をチェックしながら設定できるので、一目瞭然です。
これを各回転域ごとに設定することで、アクセルレスポンスが驚くほど改善されると共に、エンジンパワーやトルクにも影響が出てきます。
M800は、わずかな噴射タイミング調整で、ハッキリと空燃比の違いが明らかになるため、噴射タイミングの追求が簡単です。
最終的にはクランク角0.1度単位で噴射タイミングを設定できますので、現車に合わせて超精密、超最適な仕上がりを追求できるのです!