R34GT-R Vspec-II nur |
オーナー様は購入当初、改造することなくオリジナルを大切にしようと考えていたそうです。
しかし、実際に乗ってみると、街乗りで…
あまりにやる気がない。
タクシーに負けるぞってくらいエンジンが付いてこない。
とにかく重く感じる。
アクセル踏んでもトルクが付いてこない。
32R(ノーマル)は、これいいじゃん。これなら許せるぞ!という加速をする。それに引き替え遅すぎる。
(すべて街乗り領域の3000rpm以下の話です)
と、非常にガッカリされたようです。
Vspec-II nurのタービンは、従来のセラミックスブレードではなく、重量のあるメタルブレードです。
メタルブレードは全開を多用するシチュエーションでの信頼性が高く、ブレード自体の耐久性はセラミックス製を上回ります。しかし、その分重くなるため、低回転域のトルクやレスポンスは劣るのです。
低回転域のトルクを向上させるには、ザックリと大きく分けて2通りのアプローチがあります。
1:単純に排気量や圧縮比を上げ、エンジン本体のトルクを底上げする方法。
エンジン自体のトルクが向上すれば、ブーストに頼らないNA領域も快速になります。
2:より下からターボが回るようにする方法。
タービン本体を交換してしまうのが手っ取り早いですが、バルタイや排気系の変更でも、より早くブーストが立ち上がる方向を目指せます。
しかし、オーナー様の御希望は、このようなチューニングではありません。
・MoTeC以外は完全ノーマル。
・ボディや純正配線を傷付けることなくMoTeC接続。
・いつでもノーマルに戻せるように。
・パワーは追求せずレスポンスを良くして欲しい。
つまり、上記の1、2の方法以外のアプローチが必要です。
32GT-Rのセラミックスタービンは、下からレスポンス良く立ち上がる上に、車重も34Rと比較して130kg前後軽量。
ブーストが掛からない低回転域の性能アップ。
しかも条件は、ハードウェア完全ノーマル。
これは不可能です。
MoTeCといえど魔法ではありませんので。
…と言いたいところですが、「無理でも何でもM800で制御してみてください」というお客様の御希望を叶えるべく、ダメ元で挑戦してみることになりました。
ターボ付きのエンジンでも、ブーストの掛からないNA領域のセッティングは、NA同様に点火時期を進角させます。
こうすることで、エンジンレスポンスが鋭くなるばかりではなく、より低速からブーストが立ち上がってくれます。
MoTeC ECUは、設定した点火時期とピタリ同じ点火時期で火花を飛ばします(当たり前のようですが、MoTeCの優れた特徴のひとつです)。このため、安心して「欲しい数値まで点火時期を進められます」。
設定したタイミングでの確実な点火が、エンジン性能の追求に貢献します。
…というのが一般的な低速域を改善するセッティングですが、それだけではありません。
実際のセッティング作業は、点火時期と燃料噴射量を単純に合わせるだけではなく、現車セッティングという言葉通りの作業をします。
エンジンは、すべての気筒が均一で均等なパワーを出す「バランス」が重要です。
例えば300psが目標で、290psしかパワーが出なかった場合、ブーストを少し上げて300psになればOKでしょうか。
各気筒がそれぞれ50ps発生させれば300psでも、1気筒だけ不調で40psしか発生しなければ、300psには到達しません。
60psを出す3気筒と40psしか出さない3気筒で、帳尻が合って300psが出る可能性もあります。
これでは、仮に300psという目標に届いていたとしても、エンジンはスムーズではなく、振動も出やすいです。
そして、このようなアンバランスは、過走行のエンジンや、適当に組んだエンジンだけではなく、新組みのエンジンにも発生するのです。
ピストンやコンロッドなどの重量合わせ、ポートや燃焼室の容積合わせ、各部クリアランスの徹底した管理。これらの作業は非常に重要です。
しかし、これらの作業だけではどうにもならない部分にも、色々なアンバランスが隠れているのです。
例えばインジェクター。
各気筒に均一な量が噴射されているのか。均等な噴射パターンなのか。
製品に個体差があれば、せっかくバランス良く組んだエンジンでも、バランスの良い燃焼になりません。
例えばツインターボ。
2基のターボは完全に同じタイミングで立ち上がり、同じ回転数で回るのが理想です。
しかし、エンジンから排出される排気のバランス、タコ足容積、二次排圧などの諸問題から、完全に同調しているほうが奇跡です。
このようなアンバランスを、もしも完全にバランスさせることができれば、各気筒が均等に仕事をして、2基のターボも同時に立ち上がり、余計なサージングも起きず気持ちよく回るようになります。
ノーマルエンジンの性能を最大限まで引き出すことで、乗り味やフィーリング、パワーやトルクを改善させることができるのです。
こんなことは当たり前だと思うかも知れませんが、実は純正部品の部分には一切手を付けず(追加するのはECU+各センサーとブーストコントロールソレノイドだけ)、ECUセッティングだけで実現しようと思うと、非常に難しいのです。
MoTeC M800には、各気筒の燃料噴射量や点火時期を、それぞれ個別に微調整する機能があります。
この機能を使うことで、各気筒それぞれの誤差を可能な限り最小限にし、エンジンのバランスを追求。「パワーを出す気筒と足を引っ張る気筒」の差を最小限にすることで、気持ちよく回るエンジンを追求します。
実際の話、このわずかな差は、わずかですが確実に体感できる差です。
ピストンやコンロッドの重量合わせや燃焼室容積合わせは、やらなくてもエンジンは掛かりますし、壊れる訳ではありません。ただし、こだわった分だけ完成したエンジンには違いがあります。
ECUのセッティングも同じです。
こだわった分だけ仕上がったフィーリングには歴然の差が生まれます。
そのこだわりに応えられる制御を可能にするのがMoTeCです。
どこまで差が出るのか、追求します!
←その2 に続きます。