ダッジバイパー ツインターボ |
もう3年ほど前になりますが、かなり過激な毒蛇のセッティングサポートをさせて頂いたことがあります。
このバイパーは、A/m/s様で仕上げられ、弊社でMoTeC ECUのワイヤリングとセッティングをサポートさせて頂きました。
フルチューンエンジン+ツインターボで、セッティングの結果は934.4ps。そこにNOSを噴射して1000psの大台に乗せることができました。
パワーグラフの赤いラインがターボのみ、緑のラインがNOSを噴射した際のラインです。
1000psというと驚異的な数字に聞こえますが、バイパーは10気筒なので、1気筒あたりの出力は100psです。
こう考えると、RB26や2JZの600ps相当なので、「フルチューンってほどでもないな」と感じてしまいますが、意外とそうではありません。
確かに1気筒あたり100psなのですが、8000ccなので、1気筒あたりの排気量が800ccもあります。
大排気量も度が過ぎると問題です。
ボアが102mmもある上に、2バルブで変形ハート形燃焼室。当然、プラグは燃焼室の中心ではありません。
簡単に説明すると、RB26や2JZと比較して、非常にノッキング耐性が低い傾向のエンジンなのです。
しかも、完全ストリート仕様につき、燃料は普通のハイオク。レース用のガソリンは使用していないため、1気筒あたり100psという数字は、「これ以上はやめておいた方が良い」といえます。
恐らく、完全にパワーを追求したエンジンだったり、コンプレッションを大幅に下げることで、もっとパワーを出すことは可能です。しかし、ストリートも走ることを考えると、ベストな数字だと考えます。
次に、この10気筒を制御する方法を説明します。
このエンジンの特徴はV10です。
特殊な例外を除き、自動車用レシプロエンジンは2気筒、4気筒、6気筒か、それを両バンクに持つ4気筒、8気筒、12気筒が基本レイアウトとなります。
つまり、V10は定番ではありません。
V10が定番ではない理由は色々あるのですが、ここではバイパーの制御、特に点火系の特徴について説明します。
純正はコイルパックというパーツが付いていて、この中にコイルが5個内蔵されています。10気筒にコイルが5個。つまり同時点火です。
しかし、4気筒や6気筒では、圧縮上死点と排気上死点のタイミングが同じ気筒が存在するため同時点火が可能ですが、バイパーのV10は、90度バンク+72度のクランク。
点火オーダーは1-10-9-4-3-6-5-8-7-2で、TDCは0、54、144、198、288、342、432、486、576、630。判りやすく図を描いてみたので、見て頂ければ一目瞭然です。
一般的な同時点火は、同じタイミングに圧縮上死点と排気上死点の気筒が重なるため成立しますが、バイパーの場合は重なっていないため、少々特殊です。
5個のコイルは、以下のように2つの気筒を受け持ちます。
第1コイル:1番・6番
第2コイル:10番・5番
第3コイル:9番・8番
第4コイル:4番・7番
第5コイル:3番・2番
1番と6番のTDCが同じではないため、それぞれの上死点のタイミングで火を飛ばします。
で、これをMoTeC M800で制御する場合ですが、これも特殊で「燃料をセミシーケンシャル噴射にすれば可能」です。
セミシーケンシャルは、吸入タイミングの近い2つの気筒に燃料を同時に噴射する制御方法です。以下の5つのグループで燃料噴射をおこないます。
1番-10番
9番-4番
3番-6番
5番-8番
7番-2番
気筒ごとに独立したタイミングで燃料噴射をおこなうシーケンシャル噴射と比較した場合、燃費や低回転域に違いが出ますが、最大パワーやトルクには、ほぼ影響がありません。
実はこの方法、弊社では試したことがないのですが、海外ではこのようにバイパーを制御する例があるようです(なので弊社の推奨方法ではありません)。
弊社では、より正確な制御を良しと考え、ダイレクトイグニッション化して、10気筒を完全制御しました。
10気筒の点火は、ターボやNOSの装着を踏まえて、イグニッションエキスパンダーではなく、CDI/8を2基接続しています。
今後、バイパーのチューニングを考えている、ユーザー様やショップ様の参考になれば幸いです。
A/m/s
http://www.active-ms.com/